15.思わぬ会社分割のリスク

前回は、会社分割の債権者保護手続の内容について確認しました。

 

「でも、もし分割会社が、異議を言える債権者に対して催告をしないまま会社分割をしたらどうなるの?」

今回は、この問題について考えてみます。

株式会社Aは、吸収分割の方法により株式会社Bに事業の一部を譲渡しました。

ところが、会社分割の日の後に、分割会社A社が異議を言う権利のある債権者の1人であるXに催告をしていないことがわかりました。

 

(催告もれがあっても登記はできてしまいます。
分割の登記の際、公告・催告をしたこと、債権者から異議があったときは、その債権者に弁済をしたこと等を証明する書類を添付すれば足り、異議を言える債権者全員に催告をしたことを証明する必要はないからです。)

 

この場合、Xは、分割後のA社と承継会社B社の両方に債務の履行を請求できます。

このとき、吸収分割契約書でどう決められているかは関係ありません。

 

たとえ、Xに対する債務が分割後のA社が負担する債務でも、XはB社にも請求できます。また、それがB社に移転する債務の場合には、A社が重畳的債務引受や連帯保証をしていなくても、Xは分割後のA社にも請求できます。

 

ただし、この法定の連帯責任には限度額があって、分割後のA社なら分割の日のA社の財産の価額、B社ならA社から承継した財産の価額をその限度とします。

催告を受けなかった債権者Xは、分割後のA社とB社の両方に請求できるので安心ですね。

 

しかし、会社分割を利用して事業を売買しようとしているA社とB社の立場からするとどうでしょう。分割後のA社も承継会社B社も、A社が異議を言える債権者に催告をしなかった結果、本来なら責任のない債務(隠れた債務)の責任を負ってしまう可能性があり、これは大きなリスクです。

 

分割会社が、一定の条件のもと官報と日刊新聞等にダブルで公告すれば、債権者への催告を省略できるのでリスクはかなり軽減できそうです。しかし、その場合でも、不法行為を原因とする分割会社の債務の債権者に対する催告は省略できません。

今回のケースでは、分割後のA社もB社も、Xから請求されたらそれが本来責任のない債務でも拒否できません。

 

従って、この法定の連帯責任によって相手方の債務を履行した時には、法律上は当然に本来の債務者に対し求償できるのだとしても、その事を分割契約書に明記しておくことで安全策をとっておいたほうがよいかもしれません。

次回は、株主に関係する会社分割の手続についてみていきたいと思います。

M&A・企業組織再編部門
公認会計士 原田裕子
執筆者ご紹介 → http://ct.mgrp.jp/staff/

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