フリーキャッシュフロー法(4)【中小建設企業のM&A・第7回】

前回、株主資本コストは株主が求める期待収益率であり、リスクフリー レートやリスクプレミアムで計算する事をご紹介しました。
今回はリスクプレミアムに必要なβの考え方についてご説明していきます。

 

被組織的リスクと組織的リスク

株主は投資を行うにあたり、リスクに応じたリターンを求めます。
その際、 個別企業に特有な非組織的リスクと市場全体に共通する組織的リスクの2つのリスクを考慮します。

非組織的リスクとは、例えば個別企業の主力製品や設備投資の状況など、その企業の特徴に影響を受けるリスクです。
一方で組織的リスクとは、 例えば経済環境の変化など、個別企業で対応出来ない要因が影響する リスクです。

一般的には、非組織的リスクは分散投資でリスクを低減できますが、 組織的リスクは市場全体に影響するため分散投資でも排除できないリスク だと考えられます。
そのため、この組織的リスクは株主にとって考慮しな くてはいけないリスクであり、それを表したものがβと考えられています。

しかし、組織的リスクが生じた時に、全ての株価が同じ動きをするのではなく、バラバラな反応をみせます。
その反応度合いの違いが各企業のβとなるわけです。

各企業は株主や債権者から資金を調達し、ビジネスモデルを構築しています。
そのため、資金調達のバランス(財務リスク)やその資金でどのような ビジネスモデルを構築しているか(事業リスク)は企業毎に違います。

全ての企業が異なる財務リスクや事業リスクを抱えていますが、経済環境が安定している場合には非組織的リスクとして分散投資されているので、βに影響を与えないと言われています。
しかし、組織的リスクが生じた際には、各企業のリスクの違いがβに反映されて、先程述べたような株価の動きにつながるのです。

このβは上場企業であれば実際の株価データを参考にした情報をインターネット等で入手できます。
しかし、中小企業の場合には株式市場が存在して おらず、βを直接入手する事が出来ません。
そのため、中小企業は上場企業の情報をもとにβを推定します。

企業には財務リスクと事業リスクが存在すると先程述べました。これは上場企業と中小企業も共通しているので、同じ業界であれば両者の事業リスクは 類似してきます。
しかし、一方で、財務状態が異なる事は多いので、両者の財務リスクは異なります。
そのため、まずは同じ業界の上場企業を参考にして、事業リスクが含まれたβを把握します。
そして、上場企業の財務リスクを 控除して、独自の財務リスク(資金調達のバランスなど)を反映させて 中小企業のβを推定していくのです。

今回のご説明では具体的なβの計算は割愛しましたが、インターネットでも検索できるので、それらを参考にして自社のβを算出してみても面白いかもしれません。

今回は割引率の一つである株主資本コストに必要なβについて考えてみました。
次回はもう一つの割引率である有利子負債コストについて考えてみます。

 

まとめ

βは各企業が抱える事業リスクや財務リスクに影響されるので、中小企業では 上場企業の情報をもとに独自のβを推定していく事になる。

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