フリーキャッシュフロー法(5)【中小建設企業のM&A・第8回】

前回までは割引率の一つである株主資本コストについて考えてみました。
今回は割引率のもう一つの構成要素である負債コストについて考えてみます。

 

負債コストとは

株主資本コストは株主が投資に対して要求するリターンでした。
負債コストとは、債権者が企業に貸付を行う際に要求するリターンであり、 金利がそれにあたります。
企業の資金調達力を示す指標の一つと言え、 企業価値評価において重要なポイントとなります。

通常、負債コストは以下のように計算します。
【負債コストの計算式:負債コスト(%)=支払利息÷有利子負債残高】

負債コストは損益計算書の支払利息と貸借対照表の有利子負債を利用して計算する方法が一般的です。

しかし、上記の式では、負債コストが結果的にどれくらいになったかを 計算しているにすぎないので、現実的に負債コストがどのように決定されるかが不明です。
また、ゼロ金利政策で貸出金利が全体的に低下傾向にある 状況を考えると、上記の負債コストが企業の資金調達力を適切に示す事が出来ていないとも考える事が出来ます。

そこで、現実的に負債コストがどのように決定されるかを見てきたいと思います。

【負債コスト=リスクフリーレート+信用リスクプレミアム+各種リスクプレミアム】

負債コストは上記のような内容を考慮した上で一般的に決定されます。
その構成要素はリスクフリーレート、信用リスクプレミアム、各種リスクプレミアムとなっています。

リスクフリーレートとは国債の利回り等で、いわば債権者にとって必要最低限のリターンになります。
それに、企業の格付けランクや借入金の 比率などの企業の返済能力に応じた信用リスクプレミアム、担保価値や担保の余力などの各種リスクプレミアムが加わります。
必要最低限の リターンに対して企業の返済能力に応じたリスクプレミアムを上乗せして いき、最終的な負債コストを計算していくのです。

そのため、ゼロ金利政策でリスクフリーレートが低下し、全体的に金利が 低下傾向にあっても、その他のリスクプレミアムを考慮する事で、企業独自の負債コストが計算されていきます。
特に中小企業の場合には企業の担保 余力や保証人の信用度合なども返済能力に大きく影響するので、企業ごとの違いが明確になってくるのです。

負債コストの本質的な内容を考えると、本来であれば、上記のようなリスク を考慮して厳密に負債コストを再決定していく事が望ましいとは思います。
しかし、実際にその負債コストで資金調達が出来ている事や厳密に再計算を行うのが困難な事から、企業価値評価の場面では支払利息と有利子負債残高にもとづき計算したものを、資金調達力の一つである企業の負債コストとして考えていく事になるのです。

今回で、フリーキャッシュフロー法のご説明が終わりました。
次回からは、別の評価方法である時価純資産法のご説明をしていきます。

 

まとめ

企業価値評価では、企業の資金調達力を負債コストで考える。

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