ボトルネックの改善で納期遅れを解決したS社の取り組み【今日から実践!基本からの生産管理・第7回】

前回はボトルネックに着目した生産性改善の手順をご紹介しました。
今回はボトルネックを改善して生産性を大幅に向上させた事例をご紹介します。

 

 

S社の概要

S社は、医療機器の部品を製造しているメーカーで、パート従業員を合わせて150名規模の会社です。
製品はすべて受注生産ですが、ほとんどがリピートオーダーです。
製品は、非常に小さいものが多く、1つのロットが大きいのが特徴です。
1オーダーで、数十万個~数百万個の注文もあり、海外への出荷も多くあります。

工程は、
材料の受入検査⇒切断⇒加工⇒研磨⇒化学処理⇒洗浄⇒検査⇒出荷
が基本的な流れです。

技術的なポイントは、研磨工程にあり、この出来栄えが製品の性能を大きく左右します。
S社の問題は、納期遅れが頻発しており、業務担当者が常に納期調整に追われていることでした。

そこで、社長は、ボトルネックの改善によって生産能力を高めることができるのではないか、そして納期遅れが改善できるのではないか、と考えました。

 

 

真のボトルネックは

幹部と各工程のリーダーを集めた会議で、ボトルネック活用の重要性を説明した後、「ところで、ボトルネックはどこですか」と尋ねました。

社長を含めて多くのメンバーが「研磨工程」を挙げました。
確かに、研磨工程の前には仕掛品が多く溜まっています。
しかし、いろんな話を伺っていると、「あれ?」と感じる問題が出てきました。

・ 研磨工程の設備は高価であり、技術的なポイントでもあるため、研磨工程の稼働率を高くすることが原価を下げることにつながると考えている。
・ 納期遅れが発生しているのに、研磨工程の稼働率を重視するため、急ぎの製品が優先的に生産されていない。
・ 検査で不合格になり、再洗浄を行うロットが多く発生する。

工場全体ではなく、研磨工程での生産性を高めるために、仕掛を多く溜め、研磨工程の都合で生産を行っていることが分かってきました。
検査工程は出荷係から優先出荷品の検査を急かされるために、前工程である洗浄工程に対して優先的に欲しい製品を督促します。

そのため、洗浄工程では、前工程から流れてきた製品と順番の入替が生じていました。
切断や研磨を終えてから洗浄するまでに日数を多く経過するロットがあり、汚れが固着して洗浄に予定以上の時間がかかったり、検査で不合格となって再洗浄になるものが発生する、というような状況でした。

そこで、もう一度、部分最適ではなく全体最適が重要であることを説明し、各工程の生産能力と生産数量を、全員で確認してみました。
すると、ボトルネックは、研磨工程ではなく洗浄工程であることが分かったのです。

 

 

ボトルネックの活用

ボトルネックである洗浄工程の能力を最大限に活用するために、S社では、次のような対策を行いました。
・お昼の休憩を交代制にして、洗浄設備の稼働時間を長くする。
・洗浄機のレイアウトを変更して作業者の移動距離を短くし、作業効率を高める。
・休止していた古い洗浄設備を活用して能力を高める。
・洗浄工程で、製品の優先順位を変えなくて済むように、前工程から出荷順に持ってくる。
・汚れが固着することをできるだけ防ぐように、各工程での滞留時間を短く(仕掛を少なく)する。

この結果、洗浄工程の能力が高まるとともに、工場全体の生産の流れがスムーズになりました。
さらに、工場全体で生産能力の30%アップを実現することができ、納期遅れも大幅に改善することができました。

S社の問題は、高価な設備で技術的なポイントでもある研磨工程をボトルネックだと思い込んでいたことでした。
真のボトルネックを見つけると、このように大きな改善につなげることができます。

みなさんの工場でも思い込みが生じていないか、もう一度、確認してみませんか。

次回は、「生産計画の立て方」について考えてみましょう。

次回コラム

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この記事の執筆者

澤田 兼一郎
(株式会社みどり合同経営 代表取締役/中小企業診断士)

立命館大学経済学部経済学科卒業、第二地方銀行を経て当社に入社。中小企業を中心に、経営計画や事業計画の実行性を高める、現場主義のコンサルティングを実施。
特に中小建設業、製造業の経営管理体制の構築、実行力を高めていく組織再構築等のノウハウ等について評価を受ける。

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

この記事のアドバイザー

阿部 守 先生
(MABコンサルティング 中小企業診断士/一級建築士 )

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