取引先への依存度管理の重要性【事例からみる「中小 B to B 企業のマーケティング」・第1回】

今回は連載第1回のテーマとして「取引先との依存関係」について、実例を交えながらお話します。
弊社でお手伝いさせて頂いた中で、「B to Bマーケティング」の重要性を感じたのが、X社の事例でした。

 

X社の概要

X社は、電子回路の基盤を製造する製造業です。
賃加工の様態を主とする中で、最盛期には、大手家電メーカーP社の仕事を中心に、3億円規模の売上を保持しておりました。
長年P社の仕事を続けていたため、X社はQCD(品質、費用、納期)の徹底が根付いており、特に品質については、X社の強みでもありました。
しかし、大手家電メーカーの多くがそうであったように、P社は生産のメインを海外へ移管することを決定、X社の売上は当時の3分の1程度まで減少してしまいました。

その後、他社からの受注確保に注力した結果、X社はP社に代わり、LED照明を主力とする完成品メーカーY社からの受注に頼ることとなり、気付くと今度はY社が売上のおよそ8割を占める状況となっていました。
依存度は高くなればなるほど、製品開発や営業活動に必要な経営資源が特定顧客に向けて利用され、他の顧客や他の製品分野のために経営資源を振り分けることが難しくなります。

その結果、依存度はスパイラル的に増進してしまうのですが、まさにX社もその状況に陥ってしまっていたのです。
そんな折、今度はY社が、それまでX社に依頼していた加工を自社で内製化することになり、X社の売上はまたもや激減してしまったのです。
弊社が初めてX社にお邪魔したのは、ちょうどその頃でした。

X社がとても誠実に、顧客の要望に最大限応えようとしてきたものの、最後は海外移管や内製化で取引が大幅に削減されるなんてひどいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
とはいえ、B to Bマーケティングの視点から考えてみると、X社の反省点も浮かびあがります。

 

B to Bマーケティングの観点

B to Bマーケティングには、マーケティングの観点が2つあります。

1つ目は既存顧客との「関係」、2つ目は新規顧客を対象とした「市場」になります。
まず、「関係」マーケティングの視点ではX社はどうだったでしょうか。
ここではY社との関係を中心に、X社と議論した3つの反省点をご紹介したいと思います。

1) 特定顧客への依存度管理が不十分だったこと
いったん依存度が高まると、それがスパイラル的に増進してしまうことは先にも記載した通りです。
X社では気づくと売上の8割をY社へ依存しており、途中で新規開拓等の対策を打てなかったことが、結果的に危機的状況を引き起こしてしまったと言えます。

2) 得意先の購買戦略や距離感の読み違いがあったこと
そうはいっても、特定顧客に売上高の7~8割を依存しているという中小企業は少なくない中で、全ての企業がX社のような事態に陥ってしまうわけではありません。
要は相手との関係性の問題ということだと思います。
Y社からは「X社の代わり(内製含め)はある」と考えられており、そこにX社の距離感の読み間違いがあったと言えます。

3) 得意先製品の市場動向の調査不足
仮に、Y社の主力製品であるLED照明の需要が拡大していれば状況は違ったかもしれません。
しかし、LED照明の市場がある程度成熟してきた中、Y社でも内部人員が余るようになり、内部人員を遊ばせないためにも、Y社が内製化に踏み切ったという経緯があったのです。
X社では、そのような市場動向の把握という観点がありませんでした。

その後、X社では、既存顧客との関係をマーケティングとして捉え、依存度管理や相手との距離感の把握、顧客の主力商品の市場動向など、幅広く情報収集していく重要性を感じ、弊社もそれを実行に移していくお手伝いをさせていただいています。
具体的には、月次の売上高を顧客別に集計し、依存度がどう推移しているのか、相手にとって自社以外の相手がどの程度いるのかなどを、日々の業務の中で意識して管理していくということです。

そして、X社では、既存顧客への依存度を下げるべく、新規顧客に目を向けた「市場」マーケティングにも取り組んでいます。

第2回では、X社の事例をもう一つの観点である「市場」マーケティングから見ていきたいと思います。

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