X社の新規顧客の獲得に向けた営業活動の開始【事例からみる「中小 B to B 企業のマーケティング」・第3回】

前回は、X社がこれまで行ってこなかった新規顧客に対する営業をスタートさせるため、「何を売りにしていくのか」の整理を行い、売り先である潜在顧客の企業群の選定を行ったことに触れました。

今回はその続きとして、X社が実際に新規顧客獲得に向けて営業活動を開始した際、課題として浮上してきたことと、その上でどのような動きをとったのかということについてお話をしたいと思います。

X社では、これまで新規先に対する営業を行っていなかったため、営業をスタートできる体制がそもそもなく、営業が可能な体制をつくるところからのスタートとなりました。
営業体制をつくるにあたって、X社には営業担当者を新たに採用する余力はないうえに、営業するにあたっては自社技術について理解しており、製品知識を持ち合わせていることが前提として必要でした。

そこでX社が選択したのは、自社技術と製品知識があり、スピード感をもって対応できる人材として、社長直属で、管理部長、工場長、製造部長といったマネジメント層に営業担当者を兼任させる形にしました。
新規先への営業が最重要課題と考えたため、トップダウンの意思決定ですぐさま動きをとれるように組織体制を変化させたのです。
兼任であり、元の仕事がなくなるわけではないので、月に数回、新規営業に回る時間を作り、可能な限りでの最大限の対応という形です。

そしてリスト化された新規先のうち、同県内周辺の先を回るにあたって、アポイントを取れる先、取れない先がやはりありましたが、繰り返すことと、以前仕事上でつながりのあった人に話をしていくなど、持ちうるネットワークをフル活用して、アポイントに繋げていきました。

また、これまで直接顧客に接することの少なかった工場長や製造部長については、社長が最初は同行し、徐々に担当者として話をしていけるように持っていきました。

一方で、県外や首都圏の企業に対しては、広告やダイレクトメールで情報提供を行うことで、顧客の購買担当者に自社の情報を与え、潜在顧客に対しての接触を図るようにしました。
購買担当者に予備知識があれば、選択肢の一つとして接触できる確率を高めることができ、また、広く認知が行き渡ることで、潜在顧客からの問い合わせが発生し、効率的な営業活動が可能になります。
さらに、営業担当者が接触しにくい部門や上層部にも認知度が高まることで、新規先からの購買に対する抵抗感が下がり、購買のコンセンサスを形成しやすくなります。

営業を始めて、すぐに結果が出るというわけではございませんが、X社ではこれまで取引実績のなかった企業からの試作依頼が入るようになり、また逆に、外注先の開拓にも繋がりました。

このX社の事例で大事なことは、B to Bの取引においても「マーケティング」という観点を忘れないこと、すなわち、「特定少数顧客との取引におけるマーケティング」と「多数の新規顧客を対象とした市場を想定するマーケティング」の2つの視点を中長期的な視野で常に持ち続けることでしょうか。
その上で、顧客との関係構築や関係の維持、複数の関係をマネジメントすることなどがポイントになるのではないかと感じます。

次回は、別の企業の事例を見ていきたいと思います。

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