医療・介護食におけるBtoBtoCへの取り組み【事例からみる「中小 B to B 企業のマーケティング」・第7回】

前回に引き続き、Z社におけるマーケティングの特徴を紹介したいと思います。

Z社は医療・福祉施設に食事を提供する事業を営んでおり、メニュー開発から献立作成、調理・加工、配送を一連の流れで請け負っています。
セントラルキッチンで調理された食事はクックチルシステムという保存方法を用いて、チルド状態で施設へ届けられます。

前回は、BtoBマーケティングの特徴である取引先(医療・福祉施設)との関係構築について取り上げました。
今回は、当社のマーケティングのもう一つの特徴である、取引先のさらにその先の入居者へのアプローチについて取り上げます。

 

入居者へのアプローチ

Z社の商品は取引先の人材不足を補えるというメリットがありますが、それだけでは当然大手企業も既に市場に乗り出していますので、当社商品を選んでもらうための理由としてはまだまだ弱いと感じていました。
そこで、当社が考えたのは、取引先のその先のお客様(入居者)に対するアプローチです。
食事というのは、地域によってやはり味やメニューに特徴があります。
特に長い間施設で暮らされる方にとっては、家庭で食事をするような感覚をもてるかどうかで満足感に違いが出てきます。

当社は地元の企業ならではの観点で、入居者の潜在的なニーズに切り込みました。
メニューは管理栄養士が作成しますが、お客様から都度フィードバックをもらい、メニュー内容や味付け、彩りなどの見た目から要望にできる限り応えるよう見直しが行われます。
また正月やクリスマスといった季節イベントの際にはそれに応じたメニューも盛り込まれます。

さらに、工場で調理を行っている社員が定期的に施設へ伺い、直接施設で調理しふるまうことで、通常の食事では得られない満足感を感じて頂けるような工夫をしています。
このことは食事を作っている人の顔が見えるという安心感を入居者に与える効果もあります。

この取組を可能にしたのは、人材の多様性を活かす組織にありました。
当社の工場で働いている方々のバックボーンは様々です。
・高校や専門学校で調理を学び、新卒で入社した方
・調理士の資格を持ち活躍されてきた方
・プロの料理人として板前をされていた方
・主婦として長年経験を積んでこられた方など

一般的な工場勤務のイメージとは異なり、人前で料理を調理し提供することに抵抗感のない方も多いことから、当社ならではの特徴的な取組みができるのではないかと考えました。
それまでは、人材に多様性がある一方、画一的な人材がいないことの弊害にむしろ目が行きがちでしたが、今一度、どのような人が当社で働いているのかを再認識することで、個人の適性、性格を考慮した配置や仕事内容に見直しをしていくことができたのです。

このように入居者の潜在的なニーズを吸い上げ、そこに自社として何ができるかを考え、取り組んでいった結果、ある効果が生まれました。
それは、取引先(施設)との関係性強化により、ある設備投資に踏み切れたことです。

それまで当社が取り組みを進めていくなかで一番苦労していたのは、いくらお客様からの要望に応えようとしても、契約で月額予算が決まっているため、メニュー構成におけるコストのメリハリをどうつけていくかということでした。

クックチルシステムでは保管しておける期間は、工場で調理した日から提供する日を含めて5日間であり、病院や施設向けということから栄養管理や調理方法まで都度変動します。

また数日続けて同じメニューを出すということもできません。

つまり、安い時に大量に食材を仕入れ、作り置きをして生産効率を上げ、コスト削減につなげることが難しいのです。

そこで、食材を冷凍し、工程に組み込むことで、食材の価格変動への対応や生産効率改善に乗り出しました。
冷凍といっても、一般的な冷凍だと解凍の際に、鮮度や味、色が落ちてしまいます。
これを解決するために、特殊な冷凍機材を導入しました。この冷凍方法だと保存期限は大幅に伸びます。
閑散期の作り置きが可能になり、繁忙期の労働時間削減や原価の低減が可能になることから、十分投資金額は回収できるものでした。

BtoBマーケティングの効果の1つに、「投資促進」(継続的な取引が確信できるので、安心して投資ができる)があり、それが更なる競争優位につながると言われますが、まさにその事例になりました。

 

事例のポイント

この事例のポイントとしては、2つあると思います。
1つ目は、入居者へのアプローチが取引先との関係構築に有効に働いたという点です。
「生活の基本」である食事への満足度が施設の利用者の評価に大きく影響するということを押さえているところにあります。
入居者の心を掴んだ食事を提供していればしているほど、入居者の満足が低下することを恐れた施設側は当社との契約をなるべく継続したいという意向が働きます

2つ目は、このようなマーケティングの観点をもとに、実際に何に取り組むかを考える中で、自社の組織(人材の多様性)の実情に合った取組みをしていった点ではないかと考えます。

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