
47. 中小企業のための新会社法の実務 その5 類似の会社名が自由に登記できるようになるのか
Q:新会社法では、商号を自由に登記できるようになると聞きました。私は、会社の経営権をめぐって、私の兄弟ともめています。同一社名で別会社を作って、そちらで新しく商売を始めたいのですが可能でしょうか。
A:会社の設立自体は可能になりました。しかし、不正の目的をもった商号使用に当たると判断された場合には、指止めや損害賠償請求の対象になります。また、商号の問題だけではなく、取締役の競業避止義務違反を問われることにもなりかねません。慎重に事を進める必要があります。
●どこが変わったのか
現行商法では、他人が登記した商号については、同一市町村内において、同一の営業のために、同一の商号を登記することはできないとされています(商法19条)。さらに、商業登記法では、同様に、他人が登記した商号と判然区別することの出来ない商号(類似商号)の登記は出来ないこととされています(商業登記法27条)。
新会社法では、この規定が廃止されたものです。
●廃止の理由
廃止の理由は主に4つあります。
(1)規制の及ぶ範囲が、「同一市町村」に限定されるため、企業の活動領域が広域化している現代では、効果の実効性が薄れていること。
(2)個人商人の商号には効果が及ばないこと(登記が不要のため)。
(3)会社を設立するにあたっての類似商号の調査が煩雑で、迅速な会社設立の妨げになっていること。
(4)類似商号の規制を免れるために、定款の事業目的を細分化する傾向が生じ、審査が複雑になった結果、これまでにない新規の事業に用いられる用語が事業目的として認められにくくなり、起業や事業目的の変更の妨げになる傾向が生じていること。
などです。
●類似商号に関する紛争の予防はどのようにするのか
商法19条20条が廃止されたからといって、勝手に類似の商号を使用してよいわけではありません。
まず第一に、不正の目的を持って他の会社であると誤認されるおそれのある名称または商号を使用することは問題があります。侵害の停止または予防の請求(旧商法21条、新会社法8条)を受けることになります。
第二に、不正競争防止法により、他人の商号等として著名な商号等を使用する場合には、指止請求や損害賠償請求の対象となります(不正競争防止法第3条、第4条)。
●取締役の競業避止義務
また、商号の問題だけではなく、取締役の競業避止義務違反の問題も生じます。
取締役は、法令定款遵守義務を負います(会社法355条)し、競業及び利益相反取引の制限も受けます(第三百五十六条)。したがって会社の承認を得ずして競業を行った取締役は、会社に対して損害賠償責任を負いますし、承認を得た場合でも任務懈怠があればやはり損害賠償責任を負います(会社法423条1項)。
これらの部分は従来と基本的に同じです。
参考:
(商号)
第八条 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
(忠実義務)
第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(委員会設置会社においては、当該取引が委員会設置会社と取締役との間の取引又は委員会設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)