7.DCF法の具体的計算方法 ①

前回は資本コストについてお話しました。今回は、DCF法の具体的な計算方法についてみていきましょう。DCF法による株主価値の計算は、おおまかにいうと以下のような手順で行います。

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少しボリュームがあるので、(1)から(6)までを今回と次回の2回に分けてみていこうと思います。今回は(1)と(2)について考えてみましょう。

(1) 将来の事業計画の作成
DCF法による企業の評価を行うためには、まず将来のキャッシュフローを予測しなければなりません。そのために将来の事業計画を作成するのですが、建設業の場合は製造業などと比べて売上や利益の予測が難しい面があるかもしれません。というのも、その多くが個別受注で、契約額が大きいものから比較的少額のものまであり、利益率も個々の案件によりバラツキがあるからです。そうは言っても、あまり考え込んでしまうと前に進みませんから、たとえば土木と建築、公共・民間の別、公共の場合は国・県・市町村のような発注者別に、あるいは対象顧客別など特徴の類似する工事をまとめてしまいます。

そして、その区分ごとに過去の実績を分析し、公共の場合は、発注者の一般競争入札の導入動向もにらみ、市場の成長性や動向、顧客ニーズのトレンド、市場で生き残りが出来るのか(生き残りのポイントは、会社によって違いますが)、などを考慮して将来予測をなるべく正確に行うよう努力します。また、新分野のような新しいマーケットに進出する場合は、市場の魅力度や既存企業(新分野といっても、別の業種で既にやっている会社もあるはずではないでしょうか?)との差別化をチェックし、判断していくことになります。将来予測は通常5年~10年行い、予測した期間の予測損益計算書、予測貸借対照表を作成します。

 

(2)フリー・キャッシュフローの計算
次に、税引後利息支払前利益から調整計算を行って各期のフリー・キャッシュフローを求めていきます。税引後利息支払前利益を計算する場合は、まず予測損益計算書の各期の経常利益に支払利息を加えて税引前利息支払前利益(EBIT:Earnings Before Interest & Tax)を計算し、そこからEBITに対して税金を支払うと仮定した場合(金利がない場合)の税額を差し引いて計算します。

では、なぜフリー・キャッシュフロー算定のベースに税引後利息支払前利益を使うのでしょう。ここで、前々回と前回の内容をちょっと思い出していただきたいと思います。前々回、フリー・キャッシュフローについて、費用や税金を支払い投資をした後に残るお金であり、資金提供者である債権者や株主に自由に分配できるお金とお話ししました。つまり、フリー・キャッシュフローは、債権者への分配である支払利息を含み、かつ税引後のものということです。債権者へのキャッシュフローを含んでいるので、割引率として株主資本コストと負債コストを合成した加重平均資本コスト(WACC)を使います。

割引率については前回お話しました。このときの負債コストは金利分の節税効果を考慮したものでしたね。負債コストに金利分の節税効果を織り込んでいるので、フリー・キャッシュフローの段階で差引く税金は、金利がなかったとした場合の税金でなければなりません。

以上のことから、フリー・キャッシュフローの算定のベースの利益は利息支払前で税引後ということになります。前述の方法で税引後利息支払前利益が計算できたら、各期のフリー・キャッシュフローは次のように計算できます。

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今回は、事業計画を作成した期間のフリー・キャッシュフローの計算のところまでをみてきました。次回は、(3)の予測期間以降の価値(ターミナル・バリュー)の算定からみていくことにしましょう。

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